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水中写真家・(社)日本写真家協会(JPS)会員・市川写真家協会(IPPS)理事 Sammyこと田中正文さんインタビュー

財団: 今回は月刊誌やテレビでご活躍の水中写真家“Sammy”さんこと田中正文さんをご紹介いたします。田中さんは(社)日本写真家協会(JPS)会員、市川写真家協会(IPPS)理事を務められていらっしゃいます。
本日は海外取材直前のお忙しいなか、よろしくお願い致します。まず、最初に被写体が沢山あるなかで水中写真を専門になさろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
田中正文さん(Sammy)
    
田中:

一口に写真と言っても細分化されています。写真家は殆どの写真を撮ることができますが、各々特別なテクニックを持っており、そこに価値があると思います。たとえば、山岳写真の場合。富士山の写真は誰でも撮影できますが、エベレスト・ヒマラヤ等の頂上からの写真は山に登る技術が無ければ撮影はできません。水中写真も同じで水中に潜れる技術があって初めて撮影ができるのです。そういう意味で私のスペシャリティーな部分が水中であり、その他はメンタルな部分、すなわち、興味のある分野を追求して、情熱を注いでいるからこそ、光った素晴らしい写真が撮れるのではないかと思っています。

海は一番深いところで約1万メートルと言われていますが、生身の人間では潜ることが出来ない謎の世界です。たとえば、マリアナ海溝に潜り、海底に達したとしても、そこでゴールだとは言えません。人為的には区切られていますが海は繋がっていて、ゴールの無いものに向かって到達感の無い世界を旅するという部分も心をひきつけます。

 
財団: 田中さんがお持ちの潜水機材は、宇宙遊泳で使用するような特殊な機材だとお聞きしたのですが、簡単にご説明していただけるでしょうか?また、最近はデジタルカメラが主流となりつつありますが、どちらを使用されておられるのでしょうか?
 
田中:

一般的なスキューバダイビング機材は、自給式潜水器具と言われています。これは皆様、よくご存知でタンクの空気を吸って、水中に排気するのが一般的です。かつては私も使用していましたが、現在は海外の特殊部隊等が使用している機材で、「閉そく式潜水器具」を使っています。アポロ11号で月面に降りた乗組員が身に着けていた機材も同じ構造でした。これは吸った空気を外に出さず、循環させる構造で非常に重く、動きづらいので特殊な訓練・資格が必要になります。私の機材はイギリス海軍特殊工作部隊と同じもので、フランスで訓練してライセンスを取得しました。水中スチールカメラマンとして、この機材を使用しているのは日本で私がただ一人です。

水中生物にとって泡は脅威になります。またボコボコボコという破裂も嫌がります。我々が道を歩いていて急に上から水をかけられたら逃げますよね。生物にとっての泡はそういう存在だと思って頂いて結構だと思います。私の使用しているCCR(フルクローズドサーキットリブリーザー)は泡を全く放出しないのでハゼのような小さな生物から鯨のような大きな生物まで接近できるという利点があります。また、戦没船・航空機の撮影にはこの装置が必要不可欠です。通常の装置では深度にもよりますが海底に留まる時間が限られてしまいます。しかし、5分や7分では話になりません。海底ではシルトと呼ばれる堆積物があり、自分が排出する泡で堆積物が巻き上がり、視界を失うと最悪、死を意味します。また、排出した泡は排気とはいえ酸素が残っています。その泡が戦没船等に当たると錆を発生させてしまうので、遺物の保護という観点でもCCRの機材を使用しています。

現在使用しているのはデジタルカメラで、戦没船を撮影するために購入しました。一度潜ると簡単に上がったりできませんので厳しい環境の中で一枚でも多く、確実に撮影する必要があります。フィルムのカメラでは撮影枚数が制限されますがデジカメなら記録メディアの容量によっては300枚程度撮影でき、感度も現状に合わせて自由に設定できます。また、通常の撮影ならストロボフラッシュを使用するのですが、水中を浮遊しているゴミ、マリンスノーを拾ってしまって、まさしく雪が降ったような写真になってしまいます。私はビデオライトを使用しており、このライトならマリンスノーが写りにくいという利点があります。しかも、デジカメならプレビュー画面で確認しながら撮影が出来ます。

 
財団: なるほど、非常に特殊な機材なのですね。高価なんでしょうね。スポーツダイビングと異なり取材となると機材一式を海外へ運ばれるのも大変だと思いますが、水中撮影の難しいところ、またご苦労などをお聞かせ頂けるでしょうか?
 
田中:  はい。殆どが飛行機に乗せて搬出しますが、手荷物というわけにはいかないので、それだけでかなりの費用になります。カメラ機材一式は私の全財産を持ち運んでいるということになります。(笑)
水中写真に関わらず、一人では撮影出来ません。登山家でも現地の有能なシェルパや地域を熟知しているガイドがいなければ登頂は難しいでしょう。水中撮影も同様に優秀な人材を集めることは重要で、また、そういう方を雇う資力も必要になります。
私は撮影の技術を持っていますが、撮影はポイントまで確実に連れて行ってくれる船のオペレーター、また、水中でのガイド等々、多くのスタッフのご協力によって成り立っています。世界各地に命を預けられるスタッフがいてこそ成り立つものなのです。
   
財団: 田中さんは海外でもご活躍ですが、主にどちらの海で撮影されているのでしょうか?また、日本の海との違いがあればお聞かせください。
   
田中:  日本が拠点の場合は太平洋になります。海外での拠点はメキシコです。メキシコは北アメリカ大陸で北太平洋、また北大西洋・カリブ海に面しています。
一口に太平洋といっても北太平洋と、南太平洋があり、生物は共通していますが、撮影シーズンは異なります。また、大西洋やカリブ海に行くと様相がガラリと変わり、ある種のカルチャーショックに陥ります。
 
財団: 最近は日本でも漂着物が問題になっていますが、実際に潜られていて環境に対して感じるところは多々あるのではないでしょうか?
 
田中:  環境問題で一番深刻なものは温暖化による水位の上昇です。実際に平均海抜1.5メートルのモルディブ共和国では国土が失われてきています。また、水温30度で死滅するといわれているサンゴはかなり失われています。「海の熱帯雨林」と呼ばれており、水中生物にとって無くてはならない存在ですが、海洋汚染と温暖化の影響で1998年までに地球上のサンゴの約70%が白化現象にみまわれ多くが死んだと聞いています。非常に残念なことですが地球的規模の環境破壊・環境汚染が進んでいるのが現状です。
 
財団: そうですね。本当に憂慮しなければならない現実ですね。さて、今回の展示についての思いをお聞かせください。
    
田中: 2002年からパラオ共和国大統領ご夫妻と親しくさせて頂いており、一緒にダイビングする間柄です。大統領からパラオ周辺には沢山の戦没船や航空機があることを教えて頂きました。パラダイスのような南国で潜水しているすぐそばに多数の戦争遺物があったのが非常に衝撃でした。それ以来、考え方がかわり、「やれるものがやり、伝えなければならない」と思い、ライフワークとして撮影を始めたのです。太平洋戦争での沈没船、航空機を見て頂き、未だに日本に帰れず、海底に眠っている方々に追悼の意を表すると共に平和と不戦の思いを新たにして頂きたいのが展示の趣旨です。 パラオ大統領と田中正文さん
 
財団: 水中写真を始めたいと思っている方も多いと思いますが、初心者へのアドバイスがありましたらお願い致します。
 
田中: 

大きくは二つあります。写真を撮ろうとする前に海に慣れて欲しい。
海の中は生身では生きてゆけません。魚から見れば人間は機械を使用して海に入るという不自然な生物です。ですから「すみませんが、お邪魔させて頂きます」という姿勢・気持ちが大切ではないでしょうか。そして、機材の使い方を習熟するということが大切です。危険・トラブルを回避することが、結果的に海の楽しさにつながると思います。
なんにもいないと思うような海底のドロの中にも、かけがえのない生物はいます。たとえば、石ころひとつ動かしてもそこに住んでいる生物の居場所を喪う結果になる場合もありえます。ですから、足元の海草、小石、それら全てが風景だということを理解して撮影して欲しいものです。

 
財団: そろそろお時間になってまいりました。最後に今後の活動、抱負を聞かせください。
 
田中:  私のライフワークである太平洋戦争で置き去りになっている戦争遺物を出来るだけ撮影・記録して多くの方々に伝えたいと思っています。また、現在の機材で潜れる深さは約60メートルですが、さらに難易度の高い水中撮影ができる技術を海外で訓練・資格取得して、100メートルよりもっと深いところでも撮影したいと思っています。資財はかかりますが挑戦したいと思っています。
 
財団: 本日はありがとうございました。ますますのご活躍を期待いたしております。
 
〈お知らせ〉
  6月13日(火)〜6月18日(日)まで市川市八幡市民談話室2階「文化の広場」で市川ゆかりの作家展で「田中正文写真展 〜61年目のパラオ・海底の英霊たち〜」を開催いたします。
10:00〜17:00 入館無料
田中正文写真展〜61年目のパラオ・海底の英霊たち〜
〈関連サイト〉
Sammy's Photo World
市川市写真家協会


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